読書感想 -『自宅怪談』

自宅怪談 amazon.co.jp

怪談界の帝王、夜馬裕さんの怪談は独特の世界を持っている。

ただ怖がらせるだけでなく、「人間はなんて利己的で埒外な生き物なんだろう」と思わせてくれて、物語としても面白い。
後味が悪い話が多いのも特徴だ。

Youtubeの怪談系動画で、結構な数の夜馬裕さんのお話を聞いている。
この本に記載されているお話もいくつかは『語り』で聞いたことがあった。

しかし、語りで聞いた印象と本で読んだ印象はかなり異なっており、「一粒で二度おいしい」とはまさにこのこと。

文章には、字面や空白の取り方などの空気感の表現、体験者の主観にするか、筆者視点とするか、どんな「てにをは」にするかなど緻密な設計ができる。

そして、気になった部分に戻って伏線を読み返すこともできる。
『語り』がジェットコースター的怖さだとすると、文章は自分の意思で探索しながら進む肝試しのような怖さだ。

そう思わせてくれるのも、語りも文章もどっちも上手いからなのだろう。

まず前書きがとても良かった。
物語に入る前に、読者を一瞬で夜馬裕さんの世界に引き摺り込むので鳥肌が立ってしまった。
しかも後書きの伏線回収でまた鳥肌が立って、とても読後感が良い。

何が現実で、何が幻想か、自分が「見ている」と思っている世界は自分の脳が作り出したイメージでしかない。
子供の頃、実は自分以外生きている人間はいなくて、みんなロボットかもしれないと考えることがあった(今でも時々思う)が、幽霊なのか、生きてる人間なのか、ただの人形なのかは、主観でしかないのかもしれない・・・という話が多かった印象。
そういう思考実験にも似た体験ができるのが夜馬裕さんの怪談だと思う。

なので、すごく怖い話が読めたというよりは、身近な不思議な世界が垣間見れる短編集のようだった。
サクサク読めるがどの話も存在感があり、満足度が高い。
特に現代ファンタジー好きにはとても刺さる。

是非他の作品も読んでみたくなる、手にとって良かったと思う一冊でした。

白蛇と泡のイラスト

about うたかたについて

これまでのこと、すきなもの、この場所で綴っていきたいこと。よかったら、のぞいていってください。