図書館で何を読もうか、迷って迷って最終的に手に取ってしまうアガサ・クリスティ。他の本にも手を出したいんですが、安定の面白さだからしょうがない。
ゼロ時間へ amazon.co.jp ↗読書感想 - そして『ゼロ時間へ』
殺人は物語の始まりではなく、終着点。あらゆる出来事は「ゼロ時間」に向かって収束していく。
海辺の屋敷に集められたのは、テニス選手ネヴィルの先妻と現妻、そして曰くありげな人々。
すべてが一点に集まったとき、「ゼロ時間」が訪れる。
『ゼロ時間へ』あらすじ
久々に、全く犯人予想が当たらなかった作品でした!
前半は読み進めるのに苦労しましたが、ネヴィルが出てきてからは面白かったです。
今回もがっつりネタバレありで感想を書いていきたいと思います。
ゼロ時間までの時系列を追ってみましょう!
もくじ
11月19日
ミスター・トレーヴは法律家の集まるクラブで、事件が起こる「ゼロ時間」へ辿り着くまでの過程が面白いのだと語る。
そして家に帰ると、毎年泊まっていたホテルがなくなってしまう知らせを受け、毎年の計画が崩れてしまうことを嘆く。
1月11日
アンガス・マクワーターは自殺に失敗して入院していた。
働いていた社長の自動車事故に巻き込まれ、社長から嘘の証言を強要されたが拒絶し、会社をクビになり、その社長の根回しのせいで他の仕事にも就けず、妻(モナ)は羽振りがいい自分の友人に取られ、深酒とまともな職に就けなかったことで内臓を壊してしまい、絶望して自殺しようと崖から飛び降りたが、木があって助かってしまった。
この時の様子からは、まさかこいつが探偵役(?)になるとは思いませんでした。
千里眼の力を持つ看護師から「あなたは神様から必要とされている。ある場所にいるだけで、ある重要な役割を果たす」と言われる。
この時、マクワーターが誰か死のうとしている人を助けることが明示される。
2月14日
犯人(ネヴィル)が計画を紙に事細かに書き、燃やす。
この犯人は狂っている(もしくは相当憎悪を抱いている)と思わせる描写。
3月8日
バトル警視は朝食で、娘のシルヴィアが窃盗をしたと知らせる手紙を読む。
その日の午後、娘の寄宿学校に行き、娘が窃盗をしていないことを見抜く。
シルヴィアが自ら嘘をついて、やってもいない罪を被る心境がのちのオードリーの心境と被る。
心を抉られるような目線で耐えきれず、自分がやったと言ってしまうことでとても楽になってしまうことの伏線。
そしてそれを見抜いたバトル警視が謎を解くという伏線。
4月19日
テニスプレーヤーのネヴィル・ストレンジ(33歳)はこの世で一番幸福な男を代表しているような人物だと周りに思われている有名人の金持ち。
彼がテニスで一番になれないのは、他に得意なスポーツが多すぎるからと言われ、得意なのは「ゴルフ、水泳、登山(ロープで登れる)」・・・と、ここで犯行に関連するスペックの提示がされる。
「持っていないのは不安や心痛だけだった」と、ここでもうミスリードを促されている。
ネヴィルの現在の妻、ケイ(23歳)の容姿は前妻のオードリーとは全然違い、グラマラスで野生味があって蠱惑的だ。
全容を知ってから読み返すと、「なぜネヴィルはケイを結婚するほど好きになったのか」の違和感を感じる。
でも読んでいるときはその違和感は全然感じず、美人が好きなんだな、くらいにしか思わなかった。
「オードリー」という名前を口にした時のネヴィルの感情を、見事にミスリードさせられてたのが本当にすごい。ミスリードの女王すぎる。
「あなたの考えなの?」の時のネヴィルの演技が素晴らしいし、恐ろしい。
そんな駆け引きの末、毎年6月にガルズポイントに行っていたネヴィル夫婦は、6月にヨットでノルウェーに行くことにし、ネヴィルの試合が終わる9月にガルズポイントに行くことに。そのために偶然オードリーと会うための策略もあったのだと思われる。
6月のヨットの誘いもネヴィルが関わっているかもしれない。
4月30日
ガルズポイントに住むレディ・トレシアンとメアリー・オルディン(36歳だが30歳にも45歳にも見える年齢不詳の女性。1房の白髪が特徴)が、ネヴィルから9月に訪問することを告げる手紙を受け取る。
この時も「絶対にネヴィルの考えじゃない」とミスリードさせられる。
5月5日
レディ・トレシアンとオードリー(32歳)の会合。この時のオードリーの心境も読み直すと意味が分かる。
本当に「すっかり」すんだことだったんだね。
5月29日
マレーシアを出発しようとしているトマス・ロイド。
地震でドアに挟まれた影響で、独特のカニのような横歩きと右腕と右肩が十分に動かず、カニ隠者とあだ名されていた。
ロイドの兄エイドリアンが、かなりな重要人物だとはこの時は全然思わず、さりげない描写が面白い。
実はロイドが帰国をやめたのは、オードリーとエイドリアンが結婚するという知らせを聞いたから、ということでいいんですよね。
この物語は本当は、オードリーとエイドリアンがそれを決意するところから始まるべきだったのかもと思いました。
6月15日
ミスター・トレーヴがバルモラルコート・ホテルに行くことを決める。
(まさか死にに行くことになるとはね)
7月28日
テッド・ラティマー(25歳)とケイが、ネヴィルの試合を見ている。
テッドがケイを好きな描写がどこまでも可哀想。
「ネヴィルはバックハンドがうまいな」がまさか伏線だったとは。
「急にぞっとして!怖くて、おかしな気分になるの」ケイもオードリーと同じようにカサンドラ症候群になり始めている発言。
この時、実はネヴィルとケイの出会いはケイが仕組んだことだとネヴィルが知ることになり、ケイが計画的だったことが何かネヴィルの計画を狂わせることになるのか?自分でケイを選んだと思わせておかないといけない?ちょっと不可解な描写。
8月10日
マクワーターは、コーネリー卿から南アメリカでの仕事を依頼される。
南アメリカに行くのは9月末。
その前に一週間の休みを与えられ、自殺未遂の地に行くことを決意する。
8月19日
バトル警視は急な仕事で家族旅行に自分は行けなくなる。
代わりに甥のジム(ジェイムズ)・リーチ警部のところに遊びに行くことにする。
これがなければ、オードリーは助からなかっただろう。
9月4日頃
(ネヴィル夫婦が来てから4日)
トマス・ロイドをメアリーが迎えにいく。
ロイドから見たメアリーの印象が、読み返すと微笑ましい。
すでに彼女を目で追うことが楽しそう。テキパキ仕事ができる女性が好きらしい。
メアリーの観察眼がINFJっぽい。ニアミスくらいには状況を把握している。
オードリーの状況が普通じゃないこと(異様に怯えているのに隠していること)を見抜いていた。(ロイドはISTPっぽくて、個人的にISTPとINFJのカップリングは萌えます・・・!)
ガルズポイントに到着し、ロイドの目から見るネヴィル夫婦とオードリーの様子の描写。客観的で効果的ですね。
新聞(イラストレイテッド・レビュー)をオードリーに渡してしまうネヴィルの、ゾッコン感が恐ろしい。オードリーのこと大好きなのに殺したいのか、、
ロイドとオードリーが手を取り合っているところを見たメアリーが、そっと出ていくのもメロドラマで良い。
9月5日頃
(ロイドが来た次の日)
レディ・トレシアンとロイドの会合。
「困った立場にあるのはオードリーの方」というロイドの発言が、まさかそんな意味だったとは思わなかった。
オードリーのピアノの話の時、オードリーの指をじっと見るネヴィルの怖さ。
便乗してメアリーを凝視して"正直トマス"を発動するロイド。
ネヴィルの左手の小指はとても短く、右手の小指はとても長い。
これ、全然覚えてなかったし、なんの違和感もなかった。
メアリーは「3回水上の旅をする」。
メアリーが旅をしたいかを気にするロイド。
てかほんと気づかなかったけど、ここの2人のイチャイチャやばいな。つまり、2人が結婚することになるということだよね。
9月6日頃(次の日)
ミスター・トレーヴとラティマーが、ガルズポイントに夕食に来る。
ケイとラティマーは、レコードでジャズをかけながらプロのような踊りを踊っていて、ネヴィルとオードリーも踊るが、暑くてオードリーがテラスに出ていく。
メアリーはロイドとオードリーをくっつけようと応援している(メロドラマ!)。
だがネヴィルが邪魔をしてしまう。
ネヴィルのカフスボタンにオードリーの髪が絡んでしまう。
それを取ろうとするネヴィルの手が震えており、オードリーも震えていて、周りからは寒そうだと思われる。
でも実はそれぞれ違う感情で、ネヴィルはオードリーに触れて嬉しい?オードリーは怖くて震えている?この時、ネヴィルの指を見てトレーヴはネヴィルが弓矢の子供だと気づいたのかも?
レディ・トレシアンと話している時に「火薬のにおいが感じられる」と発言するトレーヴ。
もうこの時にネヴィルが何かしそうだと察していたようだ。
その後、皆がいるところでトレーヴは「心臓が悪くて階段を使えないが、最上階の部屋に泊まっていること」を言ってしまう。そして弓矢の子供の話をする。その間ネヴィルは発言しない。
話が終わって、ネヴィルはオードリーに「テラスに出ない?」と声をかけ、先にテラスに出る。
オードリー含め女性陣はもう寝るという。
部屋にはラティマー、トレーヴ、ロイドが残され、空気に耐えかねてラティマーが退出。
トレーヴは明らかに真相に気づいているように、オードリーの状況をロイドに尋ね、ロイドはこの状況を彼女は「拒絶できなかった」と答える。
そしてネヴィルとラティマーが部屋に戻ってくる。ネヴィルが戻ってきて、ロイドは逃げるように退出。
そしてエレベーターに「故障中」の張り紙があり、トレーヴは階段を登る羽目になる。
9月7日頃(次の日)
皆でイースターヘッドベイ・ホテルの海岸で海水浴。
この時のメアリーの発言のINFJ感がすごい。
オードリーはロイドに自殺未遂をした男の話をし、「あの男は今どこで何をしているのだろう」と発言。運命のイタズラを感じさせる演出!
この時のオードリーとロイドの会話は、エイドリアンを介して行われていると思われる。読み返して初めてわかる真相。
「ぼくの奥さんはきみだよ、オードリー」怖すぎる。
そしてトレーヴが亡くなったことを知らされる。
9月12日(4、5日後)
この時点で"あと二日の辛抱"(オードリーは水曜日、ネヴィル夫妻は木曜日、ロイドは金曜日に屋敷を発つ)。
この時のロイドとメアリーの、ネヴィル達についての会話が噛み合ってないことに読み返してから気づきました。
ロイドは明らかにネヴィルを避ける動きをする。
そしてケイとネヴィルの言い争いが起こる。
7時15分前頃、ネヴィルは部屋から雨が降る外を見ていた。
この日の夕食時からケイは眠そうで、頭痛がするからと早く寝た(9時15分頃)。
ラティマーのところに出かけようとするネヴィルが、レディ・トレシアンに呼び出される。
ここでレディ・トレシアンがケイの味方をするのが良い。
そして翌日、レディ・トレシアンが殺されているのが発見される。
実際の「ゼロ時間」はレディ・トレシアンが殺されたタイミングではないですが、やはりこの瞬間が全ての計画の最終地点だったと思います。
この後の展開はよくある推理小説と同じですね。
でも、オードリーに起こる奇跡が、ネヴィルの計画外の出来事でした。
ロイドがバトル警視の事情聴取の時に予想していた犯人って誰だったのでしょうか?ネヴィルかな?
「洗われたドンはとても悲しそうだった」って描写がめちゃくちゃ好きでたまりません。アガサ・クリスティは犬の描写も完璧か!
バトル警視がネヴィルに「犯人はオードリーかも」の話をしていた時の殺人の動機がそっくりそのままネヴィルの動機なの面白いですね。
「ゼロ時間」の概念の話は、ミスター・トレーヴ→ミスター・ダニエルズ(3月のクラブの時)→バトル警視で伝わっていることもニクイ演出です。
個人的な経験(娘の冤罪事件)でバトル警視はオードリーが犯人でないと気づいた。そしてマクワーターが推理から導き出した嘘の証言をしなければ、オードリーは絞首刑になっていた。
本当にここに辿り着くまでの物語が洗練されていると思います。
いわゆるノンシリーズと言われる、ポアロ物でもマープル物でもない話ですが、ポアロの名前が出てくるのが粋な計らいですね。
そういう意味ではポアロ物と言ってもいいと思います。
久々に壮大なミスリードで物語が180度変わる体験をしてめちゃくちゃ気持ちいい読後感。
私の中では前回読んだ五匹の子豚をこえてアガサ・クリスティベスト5に入るかもしれない。ゼロ時間に何が起こるのかの期待を裏切らない作品でめっちゃ面白かったです!
次はホラーものを読みたい気持ちにさせられるくらい、怖い思いをしました・・・!