読書感想 - 『鏡は横にひび割れて』(『半落ち』を添えて)

鏡は横にひび割れて(アガサ・クリスティー) amazon.co.jp

面白かった・・・!
しんみりと、・・・面白かった!!

読もうと思ったきっかけは下記の記事。

アガサ・クリスティ沼へのお誘い(マチルダゆか) note.com

オリエント急行、ABC殺人事件、そして誰もいなくなった、アクロイド殺しと借りて、いよいよマープルものを読みたいと思っていたところ、上記の記事で2位になっており、「マープル初心者に絶対的におすすめ」と紹介されていたので、是非この作品から読みたいなと思っていました。

ミス・マープルが暮らすイギリスののどかな田舎、セント・メアリ・ミード。新興住宅地ができ、村の風景も変わりつつある中、有名女優マリーナ・グレッグが越してきた。
彼女の屋敷で開かれたパーティで事件が起こる。こんな平和な村で一体何が起こっているのか。様々な思惑が錯綜する中、ミス・マープルがたどり着いた答えとは——。

『鏡は横にひび割れて』あらすじ

本書はアガサ・クリスティの「ミス・マープルシリーズ」の長編もの。
アガサ・クリスティ著の有名な探偵といえばポアロですが、ミス・マープルも人気がある「おばあちゃん探偵」です。
人生経験から人の本質や人間関係を分析して真実に辿り着くところが面白いです。

市の図書館で数ヶ月待ちだった本書を、ついに手にしました。
読み終わった後、その前に読んでいた『半落ち』と読後感が似ているなと思いました。
日本の小説とイギリスの小説、何がそう思わせたのか、考察してみたいと思います。

下記、ネタバレと考察・感想です!

この作品の、ここが好き!

本作で感じた「ミス・マープル」

読み終わってから調べたら、『アクロイド殺し』のキャロラインを元にしているキャラなんですね。キャロライン好きでした!!!なるほどね。知ってから2周目を読んだら、アクロイド殺しも思い出してしまって辛さ倍増。

読書感想 - 『アクロイド殺し』 宵と泡沫

「オールドミス」という言葉は本作で初めて知りました。
結婚適齢期を過ぎた人を指す言葉・・・英語はなぜ未婚/既婚女性を指す言葉があるのでしょうか。結婚することが当たり前だから?この人は未婚ですよと知らせることでその人が結婚しやすくなるとか?結婚してるのかなとか遠回りに調べずにすぐアプローチできるから?
ミス・マープルがなぜ結婚しなかったのか、とても気になるけど他の作品で語られているのかな?(とりあえず次はミス・マープルの最初の作品『火曜クラブ』を読みます!)
年の功と持ち前の聡明さと好奇心で真相を導き出すのが単純に尊敬します。

冒頭の導入が好き

一番最初のミス・マープルのモノローグで、庭の手入れが思い通りにならないことにストレスを感じている描写がめっちゃ共感。心理描写というか、キャラクターの情景を描くのが、アガサ・クリスティは本当に上手いなぁと惚れ惚れします。

「誰々に似ている」というマープルの人間観察もわかるな。
私の持論ですが、「誰々に似ている声」で性格診断ができると思っています。似ている声の人は性質も似ていると思う。不思議です。

2周目に読んだ「マープルが転んでヘザーに助けられて休んでいるシーン」はやばいですね。犯人の名前を口にする殺される人とその人と結婚してた人と真相に辿り着く人。ご都合主義といえばそれまでだけど、抗えない運命で辿り着いた結果としか思えず胸が苦しくなるシーンです。

犯行の疑問点

第一の殺人

ドリー視点を読んだ時の第一印象と、同じ結末ではありました。
ヘザーが何か知ってはいけないことを知っていて、それがマリーナの表情を凍り付かせた要因であることは分かりましたが、すぐにマリーナ自身がヘザーを殺すほどとは思っておらず、、
作者に散々弄ばれ、真相にたどり着くまで本当に楽しませてくれました。
( ゚д゚) 。oO(人間の振れ幅ってすげぇ)の一言ですね。人生で一番憎んでいた人物をその場で衝動的に、かつ冷静に殺すなんて。
流石に計画を練ってから殺すのでは・・・?
すぐに殺せる劇物を持っていたならすぐ殺す・・・だろうか?
でも、ヘザーは本当に「歩くテロリスト」で、無邪気に殺意を振り撒いているので同情の余地もありません、、悲劇、の一言です。

第二の殺人

エラを殺したのはマリーナってことでいいんでしょうか?
流れとしては、最初はアードウィック・フェンに電話してて、その後にマリーナに電話したことになりますよね?
エラがマリーナを脅迫していたとしたら、呑気に屋敷にある薬を体内に入れるなんておかしいと思う・・・。マリーナがラッドにエラに脅迫されたことを漏らしてラッドが始末したとかも考えられますか?

第三の殺人

・・・なぜロンドンに行ったのでしょうか?
ジュゼッペが脅迫したのはマリーナでいいと思うんですが、あのお金はなんのために誰から受け取ったものだったのかがわかりません。事件には関係ないものだった?
ジュゼッペを銃殺したのがマリーナだと思えないんですが、本当にマリーナが殺したのか・・・?
屋敷の中で銃声がして、気づいた描写があったのがメイドのビアンカのみってのも疑問です。プレストンもラッドも共犯だった可能性?エラの時と同じように脅迫されたことをマリーナがラッドに漏らして、ラッドがプレストンに指示して殺した可能性もあるのでしょうか?
プレストンがグルだと思うのは、グラディスを探していたアメリカ人の青年はプレストンで、道を聞かれたのがマープル(グラディスを助けた前後の出来事)だからです。この時のプレストンは純粋に手が足りないから手伝いとしてグラディスを頼っていた可能性もありますが、ラッドの指示で始末しにきた可能性もありますよね。

第四の殺人

最後のマリーナは誰を恐れていたのでしょうか。脅迫者を自分で始末していたとすると、怖がる人はいないはず。
あのシーンを読むと、最後までラッドに自分がヘザーを殺したとは言っていないということでいいんですよね?
撮影所でのコーヒーの砒素はマリーナ自身が入れたとして、胸像が落ちてきたことはただの偶然だったのだと思います。
脅迫状は悪戯とマリーナ自身が仕込んだものの、どちらもあったと思います。
最後に薬を盛ったのはラッドだと思います(これは確信)。

考えたこと

今も昔も人を惹きつける“噂話”

「セント・メアリ・ミードのありとあらゆる舌がさかんに活動していますよ」

めっちゃセンスのいいセリフ回しだなと思います。
今はテレビやネットのおかげで、口頭でなくてもニュースを得ることができます。
でも、その便利さの弊害で人との繋がりも薄くなっているんだよな、としみじみ思います。
プライベートを秘密にできないことと、人との繋がりが希薄になることは等価交換で、一体どっちが幸せなのでしょう。

鎮静剤(カルモー)をみんなが飲んでいること

昔から鎮静剤を飲まないとやってられなかったとすると、やっぱり生きるのは辛いってことですよね。
なんのために人間は子孫を残しているんだろう。子供が辛い世界を生きることになるのに。絶滅しようぜ。

“半落ち”の犯人

半落ち(横山秀夫) amazon.co.jp

本作の前に読んだのが、横山秀夫氏著の『半落ち』でした。
犯人に関わる人の心情を丁寧に描く様子と、日本の現状を書いていることが、本作に似ているように思いました。

ラッドと梶は似た境遇だったと思います。「壊れてしまった“愛する人”を救えた」という救いのない結末。人生の結末はいつだってそう。
それを誤魔化して、あるいは気づかずに、笑って生きている。
辛さの中にも希望はあって、希望を持った若者はいいものだ、という啓示も似ているように思いました。

チェリーは一緒に暮らすのか? “家族”について思うこと

「一緒にいられる人間」かどうかは実際に暮らしてみないとわからないものです。
ナイトがマープルに合わなかったように、マリーナに合う人間はそうそういないだろうと思います。片方が合っても、もう片方が合わないこともあります。

私は、人間の最小単位は二人だと思っています。
人間は一人だと不具合が起こる。三人でも四人でもいい。一人でさえなければ、卓球もセックスもおしゃべりもできる。それが「家族」だと思う。

マリーナは結婚していても、養子がいても、実際は“一人”だったのだろうと思います。
だから自分の”家族”になってくれる「自分の子供」を求めたが、生まれた子は自分を求めてくれる子ではなかった。
実子がもし健常者だったとしても、多分同じだったろうと思います。家族の契りを交わしたもの同士には、責任が生じる。でもマリーナはそれを無下にし、どこまでも自己中心的だった。だから壊れてしまったのだと思います。

マープルが「一緒にいられる人間」を見つけられた描写が、チェリーからの申し出であったのだと思います。
結婚相手に欠点がないことなんかまずない。そして、世の中全ては タイミング です。
ナイトとの関係が限界に来ていたこと、チェリーも居場所を求めていたこと、チェリーの欠点を受け入れ、チェリーも相手のしてほしくないことをしないように努力していくことを誓う。うまくいくかはわからないけど、やってみないと結果はわからないのだから。

まとめ

当時のイギリスに想いを馳せたり、私の趣味の住宅地巡りを疑似体験している感覚、さまざまな立場への感情移入、プロットのうまさに翻弄されて贅沢な読書時間でした。
満足度が高すぎて、「鏡は横にひび割れて」というタイトルだけで様々な想いが思い出されて胸が苦しくなります。
人生って辛いよな・・・!だがそれが美しさでもある。

白蛇と泡のイラスト

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