長年興味はあったけど、超大作なので手を出す勇気が必要だった『屍鬼』をやっと読みました。
例に漏れず一気読みです・・・!
以下、完全にネタバレ有りなので注意!
読書感想 -『屍鬼 文庫版』
村は死によって包囲されている――。
三方を樅の森に囲まれた小さな村・外場。
ある夏、住人たちが原因不明の死を遂げていく。
若き医師・尾崎敏夫と僧侶・室井静信は調査を始める。
死者の数だけ、夜の村に「何か」が増えているようだった。
『屍鬼』あらすじ
でも、ここまで風呂敷を広げてカタルシスがないのも意外です。
静信好きからすればハッピーエンドなんだろうけど、私は断然敏夫派なので辛い結末、、
屍鬼側の視点が出てくるまでは超わくわくでしたが、四巻五巻はいろんな意味でしんどかったです。
実はアニメが放送していた時に最後の方だけ少し見て、結末は知っていました。
その分読みやすかったかもしれません。
物語を振り返りながら、感想をまとめようと思います。
屍鬼(一) amazon.co.jp ↗海外作品に慣れすぎたのか、最初に地図と人物紹介がないと辛い・・・!
人物紹介があると、そこに書かれている人以外の名前は覚えなくてもいい、と思ってサクサク読めます。
どの人物が重要かわからないと、全員の名前と関係図を覚えながら読み進めるのでなかなか苦痛でした。
二周目は名前を覚えている状態で読めるので伏線を楽しめますね。
最初の一文が、静信のエッセイ(外場が燃える11月から1年半前の雑誌に掲載された)の「村は死によって包囲されている」から始まるのが粋だなぁと思います。
この一文が何度も引用されるのも好きです。
このエッセイがどれだけの意味を持つのか、読み終わってからじゃないとわからないのもワクワクしますね。
まるで、沙子が初めて外場村を認識したような感覚を、読者も体験させられているような。
山火事が外場の外に漏れたのは11月8日午前3時。
二周目だと「連絡をする余裕もないほど現場は混乱を極めている」という描写がその通りすぎて面白いやら悲しいやら。
外場から来たワゴン車の運転手は静信で、棺は沙子ってことでいいんですよね。
第一部 鴉たち
このタイトルって何を意味しているんでしょうか。
屍鬼のこと?村人のこと?
尾崎敏夫は32歳。
一周目に読んでいるときはもっと40代くらいだと思ってました。
妻の恭子は30歳。若いな。
律子は28歳くらいという描写。
その歳で村で生きることを決心させるのってなかなかですね。
二周目だと、みんなが生きているのが嬉し悲しいです。特に病院と寺。
末路が辛すぎる故、こんなに読み返すのが辛いとは、、
でも信明だけはすごく株を下げていますね。すげぇ人格者だって描写されているのがいたたまれない。
あと、「喫茶店」とか「ベンツ」とか一周目に見逃していた伏線がたくさんありました。
田中家の二周目も辛いですね。
昭は中学に入ったばかり、かおりは二つ上でどちらも中学生。
沙子も13歳という設定なので、昭と同い年ということになります。
矢野妙と加奈美親子も優しすぎる故に救われなさすぎて辛い!
若御院の文章、私はあまり好きではないですが、二周目だと意味が見えてきます。
どうして静信は村を捨てたのかを理解させるための文章だったんですね。
あとなんでかわからないですが、駐在の高見さんのSIREN感がすごい。
恭子のモルモットシーンもSIRENをめちゃくちゃ思い出しましたが、なぜか高見さんのイメージがめっちゃSIREN。
SIRENのせいでゾンビ=駐在さんのイメージが強すぎるのかも。高見さん、惜しい人を亡くしました。
後から調べて知ったんですが、SIRENは屍鬼を参考に作られているとか。
だから宮田先生と敏夫がめっちゃ似てるんですね。
7月24日未明 虫送りをしていたため沙子たちは村に入れなかった
7月27日 傀儡を使い、山入の大川義五郎に儲け話を聞かせて連れ出す
※この時に傀儡が元子の子供を轢き逃げる
7月28日 大川義五郎が村の外に出て噛まれ傀儡となり、屍鬼を村に招き入れる
7月30日 山入の村迫三重子が薬をもらいにくる
8月に入ると、兼正の家に誰かいるようだと噂になり、村中の祠やお地蔵様が壊されている
無理に傀儡を使わなくても、村外に通勤や通学しているやつを噛めばよかったような気がします。
山入に潜入してた屍鬼の正体の描写ありましたっけ?
沙子たち一行だったのか、尖兵だったのか。
8月1日頃 山入の村迫秀正、大川義五郎が亡くなる
8月5日 山入の村迫三重子が亡くなる
8月6日 後藤田秀司が亡くなる
数日後、兼正に沙子一行が引っ越してくる
この頃の病院のやりとりが結構好きです。まだ平和な頃。
伝家の宝刀、急性心不全!とか、シャーベットを「おつまみ付きです」って出したりとか。
喫茶店での道祖神の「ウチ」と「ソト」の話、突然何の話だと思いましたが、大事な話でしたね。
敏夫と静信と辰巳のファーストコンタクト。
この会話で病院は屍鬼の侵入できる建物になったと思うんですが、奈緒は入れなかったんでしょうか。招く条件がよくわからないです。
この時、江渕さんのことを「息子さんに病院を譲られてとっくに引退している」と表現していますが、そんな人がクリニックなんか作るはずないんですよね。
後半にはすっかり忘れていました。
SLE(全身性エリテマトーデス)って設定はなかなか良い隠れ蓑で好きです。
他の人物とやりとりしている時の敏夫のキャラが、百鬼夜行シリーズの木場と被ります。
つまり私好みのキャラです。好き。
読み返して気づきましたが、清水恵の気性って父親の気性とちょっと似てますよね?似たもの親子だ。
迎え火の日、沙子と静信のファーストコンタクト。
沙子が言う「人間なら誰だって、神様に見放されているって感じはわかると思うわ」は二周目はズシっと来ますね。
殉教者とは、自らの信仰・宗教的信念または理念を守るために、迫害や苦難の中で命を捧げた人のこと。最終的に辰巳も静信も殉教者だと思います。
だからこそ静信にとってはハッピーエンドだよね。
8月11日 清水恵が山狩される
8月15日 清水恵が亡くなる
8月18日 大塚康幸が亡くなる(新興宗教のため寺は関与しない)
8月20日 清水隆司が亡くなる(清水園芸の長男)
8月21日 後藤田ふきが亡くなる(秀司が殺した)
恵の貧血についての検査結果と考察の流れがリングみたいで面白いです。
ホラーの科学的考察がめっちゃ好き。
「疫病だ」と確信し、第一部が終わります。
第二部 深淵より呼びぬ
静信と敏夫が疫病かもしれないことを共有するところからスタート。
敏夫の部屋の本棚は参考書から医学書へ、ローボードの中身はレコードから洋酒へ。人となりを垣間見れていい描写。
血を少しずつ抜かれていることで起こる病気の調べがすごくて説得力があります。
でも読者はそれが吸血鬼による犯行だ、とわかっているので高みの見物。
兼正の先代の急死(前年の7月)が関係していることも読者には関連がわかりますが、敏夫たちにはわからないのがもどかしい。
噛み跡が虫刺されの跡に見えるのもいい描写。
「なんかだるそう」というあまりに些細な初期症状のため、大々的な告知ができない
↓
8月23日 敏夫と静信は保健係の石田を呼び出す
8月24日 安森奈緒が診察に来る、徹底的な検査をする
石田は田中父へ死亡者リストを依頼
↓
敏夫と静信は石田から「10名死んでいる」と報告を受ける
石田は夏バテが流行ってるから注意するように呼びかけるチラシ作りを、静信は関係者へ聞き込みをすることになる
↓
敏夫は石田に、外部に報告をあげないように指示(早期の封じ込めをさせず外部に漏らす作戦だが、結果的に屍鬼に都合の良い状態に)
↓
次の日、豪雨に紛れて、沙子たちは発破で山入りの道をふさぐ
駐在の高見さんは兼正に向かい、亡くなって8月が終わる
沙子と静信の3回目の会合。
サインをもらう沙子が可愛いです。
静信が語る敏夫の子供の頃の話の中で「タブーに挑戦するのが好きだった」と回想するのも良い伏線ですね。
ここら辺から深夜の引越しも増え、いよいよ不穏になってきます。
次の沙子との会合で、静信が今書いている小説について沙子は「それも、ツノのはえた男の話もカインの話だ」と指摘します。
聖書のカインとアベルの話について、ちゃんと知らなかったので改めて物語の内容を確認すると、まんま作中作の設定そのままですね。
沙子は「室井さんは唯一絶対の神様に奉仕したい。絶対的な正義に対して忠実でないと我慢ができない」と指摘。
神に見放されているという感覚(自分は求めているのに受け入れてもらえない、何を信仰すれば良いのかわからない)自分が異端者であるという感覚が最終的に裏切りに繋がる。
カインは人類で初めての殺人者。村人の期待を裏切る自殺未遂も殺人。
殉教者になりたい静信はカインなんだな。
10月3日 武藤徹が亡くなる
↓
石田に口止めしていたことを静信が知り、敏夫と喧嘩に
↓
石田が失踪
夏野が敏夫と接触し、吸血鬼かもしれないという天啓を与える。
この出会いがなければ敏夫は真相に辿り着かなかったかも。
起き上がりが存在していることに思い至り、二巻が終わります。
第三部 幽鬼の宮
敏夫が静信に「出血性ショックだ」と告げて吸血鬼が元凶であると話す。
こんなこと話せるのも幼馴染だからですね。
「それ」は意思のある生き物かもしれない。
吸血鬼に対抗する資料を手に入れる=起き上がりを抹殺するという意見に対して、静信は悪寒がします。
それは今自分がたまたま屍鬼の話を書いているので資料があるからとも読めますが、実際は殺すことへの抵抗ですね。
理性では村のために抹殺することが正しいとはわかるが、感情が反発している。
大塚康幸が兼正の家に入っていくのを目撃した昭はかおりを説得。
子供であってもやはり屍鬼を見ていなければ信じられないし、大人はもし目撃しても見間違いだと信じると思います。
律子は半信半疑でしたが、そんなわけないと思っていました。
夏野は誰も信じてくれないだろうと考え(徹がいたら話したかもしれない)、全ての異変は同じ色をしていて、「あの家ができてから」始まったという直感。
夏野の主人公感ぱない。自分の身は自分で守らないといけない、と行動を起こすが、それが逆に死を早めてしまいました。
夏野が偶然昭・かおり組と接触する展開は胸熱です。
この子供3人組はもうちょっと活躍させて欲しかったです、、
まだ死亡していない被害者が村外の病院に行った時、屍鬼たちはどうしていたのでしょうか。
もう死ぬ寸前だったから回復せず死んだのか、一度吸血した相手の場所がわかる能力があるのか、は明示されて無かったように思います。
安森節子の入院1日目は敏夫の死に至るまでの病態の講釈、2日目は静信の吸血鬼や甦る死体伝説の講釈。
それぞれ面白いですが、流石にここらへんまで来ると結構くどくなってきます。
屍鬼の構想はスラブ民族の「ヴァンピール」から来てると思って良いんですかね。
ヴァンピールは起き上がり(蘇る死体)でヴァンピールに襲われたものはヴァンピールになる。
虫送りの日に連中が入れなかったことから、敏夫は屍鬼が入れる条件を考察して全部正解を引いてるのが強キャラすぎる。
「また虫送りをすればいい」と皆冗談として言うが、なかなか実行はできない。
沙子と静信の会合で「敏夫が屍鬼の存在に気づいたこと」を沙子に伝えてしまう。
楽園の外は流刑地で、流刑地の外は楽園という考察。
そもそも今いる場所が流刑地なのだという考え方。
屍鬼になった徹を前にして杭を刺せない夏野。
そもそも常人には、生き物に杭を刺すなんて無理だという絶望感がこの後の展開を予感させます。
安森徳次郎の見舞いに行く信明は全てを悟る。
克江さんも全てがわかっているし、寺には昔から屍鬼の伝承が残っているのでしょうか。
なぜみんなに教えてあげないのか。みんな村が滅ぶことを期待している?
恭子が倒れ、恵に田中父が襲われて、死亡者の戸籍の改竄が行われる。
田中父が襲われる流れはかおりのせいって感じでしたが、戸籍の改竄をしないといけないということは決定事項だったわけですよね。
・・・村人全員最終的には殺す計画か。
ここで三巻が終わります。
屍鬼(四) amazon.co.jp ↗4巻の見どころといえば、恭子をモルモットにするシーンの狂気が好きです。
私は全面的に敏夫を支持します。人類の歴史そのものだし。
印象としては宮田先生よりマイルドでした。
もっと狂気でも良かった!宮田先生はそこら辺がセクシーすぎる。
信明が消え、あの厳格な父がなぜ、と動揺する静信は信明が桐敷に宛てた手紙の内容を見つけます。
なぜ自ら招いたのかが気になって兼正に向かうこと(沙子に会いに行くこと)を決意。
迎え火の日から伏線で、「母親がどんな人物なのかわからない」という描写があり、自分自身も含め、誰にとっても現実は「何ひとつ定かじゃない」と感じる。
信明の独白がかなり衝撃的でしたが、みんなそんなもんだよね。
下の世話されるの屈辱だよね。いや、ご褒美の人もいるかもしれない。
第四部 傷ついた祈り
開幕、静信は兼正に向かいます。
沙子に会い、兼正の食料に。この時点で静信的にはかなり満足なのではないでしょうか。
兼正の住民たちと静信の会話は興味深くて好きです。
正体を知ってる状態での会話って、皆それぞれ新鮮なんでしょうね。
連続殺人鬼でも、被害者とコミュニケーションをとってしまうと殺せなくなるそうですが、ほんとか?
屍鬼1人あたり5人いれば、人間も天寿をまっとう出来る、家族ならワンチャン行けるのでは。
そういう世界を作るのを目標にはできなかったのか、、、無理か。
死なないで変容する人狼は、血じゃなくて普通の食べ物でも生きながらえる。
昼間にも活動でき、屍鬼を超えた存在と言える。
むしろ屍鬼は人狼のなり損ないのよう。
殺意のない殺人は事故であって殺人ではない
殺意のない殺人はない
理由のない殺意はない
何度も引用されるこの言葉は自殺に対する考察かなと思いながら読んでました。
もしくは村に対する殺意。
光輝の具現であった弟は死にたかった。
愛されているように見えて、実は役割を演じているだけで辛い世界に絶望している。
人間みんなそうだと思う!
千鶴から、静信が屍鬼側に行ったことを聞かされた敏夫は「全てが突然、どうでもいい種類のことを思われた」と語るように、静信と一緒に戦いたかったんだなと思います。
結果を教えても誰も一緒に戦おうとしない(夏野と組めていたらまた違ったのかもしれません)、村が滅びるのを見たいと千鶴を説得する敏夫。したたかで好き!
その頃、屍鬼になった律子。
律子と徹の問答だけが、この世界での唯一の救いです。
こういう優しい世界は醜い世界の中に少しだけ存在しているから美しいんだ。
「逃がすな。あんたの娘を殺した犯人だ」
千鶴を血祭りに上げる敏夫最高にクール!好き!
最後の辰巳と静信の会話がこの物語を象徴しているように思います。
「自我は落下して消える」「沙子が失われるよりいいな」「世界が滅びるときに最後から二番目に死ぬ人間になりたい」辰巳のこの主張が最後に静信に届いてよかった。
最後に登場家族について感想を書いておきます。
桐敷家
全ては幼い沙子が起き上がってしまったことから始まり、皆沙子に出会わなければ・・・悲しい世界だ。
数々の仲間が生まれた中で、沙子を好きな人たちが集まったのが桐敷家ですね。
もしかしたら鬼滅の蜘蛛の鬼のモデルなのかな?
室井家
役割を演じることに疲れた一族。
村で一番偉いと生まれる前からレッテルを貼られてさぞ辛かったでしょう。
まさか最後村人に殺されるなんて、酷い結末すぎて、ご冥福をお祈りします。
静信は一生仕えられる主人ができてよかったね!
尾崎家
役割を演じるなら自分の好きなようにやる、室井家と対照的な一族。
3人とも似たもの同士だね。
敏夫が強すぎたことも静信に劣等感を植え付けたのかもしれない。
武藤家
良心がすごい。徹の犠牲の元、唯一逃げ出せてよかった。
結城に優しいのもほんと、この村の唯一の良心。
結城家
結城父が嫌い!ちゃんと昭とかおりに謝って!
息子がいるのに移住するってのもちゃんと考えようよ・・・地方民から見ると東京に実家があるだけで勝ち組すぎるのに、夏野がグレるのも仕方ない。
縛られた世界で精一杯頑張った夏野は素晴らしいです。
田中家
田中父が妻のことを嫌いだったと悟るシーン、辛いわ。
逆に夫の死亡後にお金がなくて勝手に葬式契約していることを知らされるのも辛すぎる。
屍鬼がいなければ、子供が独立すれば良い距離感でいい家族になれたかもしれない。
でも一番日本の家族の縮図のような家族だったと思います。
矢野家
武藤家が唯一じゃ無かったわ。
矢野家も村にあって本当によかった・・・!
飢餓に耐える妙が辛すぎるよ・・・!!屍鬼側の管理が雑すぎてそりゃ計画破綻するわ・・・!!
前田家
全てに引導を渡した元子。マジで一番狂気だったな。
元子は本当に可哀想でした。一番友達にはしたくないタイプ。
矢野家への裏切りもいっそ清々しい。
敏夫視点で見ると、一体何のために頑張ってきたのか・・・という結末ですね。
悲しいです。カタルシスがない!
でもここまで長編を読み切ると何かしらの自信がつきました。
2週間で5冊はいける!
感想をまとめるのもかなり時間がかかってしまいました。
次は専門書系を読みたいと思います!
ここまで長々とお付き合いくださりありがとうございました!