アル中の気分を体験できると話題のアル中小説、中島らも氏著の『今夜、すべてのバーで』を読み終わった。
作中で、主人公が「アル中の論文を読みながら酒を飲んでいた」という描写があるが、私も同じく酒の肴にしながら読んでいた。
・・・しかし、主人公の一日一本ウイスキーを空ける生活は流石にヤバすぎる。
アル中の気分を体験できると話題のアル中小説、中島らも氏著の『今夜、すべてのバーで』を読み終わった。
作中で、主人公が「アル中の論文を読みながら酒を飲んでいた」という描写があるが、私も同じく酒の肴にしながら読んでいた。
・・・しかし、主人公の一日一本ウイスキーを空ける生活は流石にヤバすぎる。
アルコール中毒の35歳のライター・小島容は、日頃の中毒的飲酒が原因で肝臓を壊し、強制入院となる。
酒を断たれた病棟で、皮肉屋の医師や個性的な患者たちと過ごしながら、「なぜ人は飲むのか」を自問する日々が始まる。
『今夜、すべてのバーで』あらすじ
どうやら作者の自伝的作品らしく、入院時の様子が非常にリアルだ。入院前の最後の一杯(日本酒ワンカップ×2)を飲む様子や、おそらく肝炎が原因で黄疸になったこと、相部屋の個性的な患者たち。
中でも一番印象的な人物は、やはり極度のアル中福来だろう。アルコールが原因で妻と離婚したが、むしろお酒の摂取の障壁がなくなって清々しているよう。
医療保険によって「入院するだけで生活できること」が、これほど人間をダメにするのか。霊安室で主人公に純度100%消毒用アルコールを差し出す狂気が凄まじい。
医者の赤河の頼れる安心感と綾瀬少年の儚さも良い。
本人には非がないのに、生きたいけど生きられない子と助けたいのに助けられない人、彼らと対比される「自分のせいで死にそうになっている人」の構図が皮肉だ。
いつだって欲しいものは手に入らないから、人は不満足を肯定しなければならない。
私も、本書で言うところのウィークエンド・ドリンカーだ。
平日は夜だけ飲み、土日は朝から飲む。休肝日はない。
仕事という強制労働はアル中予備軍にとっては健康に一役買っているのかもしれない。(仕事のせいで酒量が増えているような気もするが)
アル中について、ドラッグ中毒も含めた考察が読める本作。
読んでいる間、前に読んだ脳内麻薬の話を思い出したので、脳内麻薬の新書の覚書も踏まえてドーパミンやオピオイドの観点からも考察してみよう。
今回の引用元は下記の『脳内麻薬 -人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体-(著:中野 信子氏)』である。
脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体(中野信子) amazon.co.jp ↗人類が初めて「ドーパミン」を発見した時のラットの実験がやばい。
(詳細は割愛する。是非本を読んでみてほしい。)
ドーパミンの快楽に対しては空腹や痛み、母性本能すら勝てないことが実験によって確かめられている。
ドーパミン(脳の快楽物質)が分泌される時は下記のパターンがあるようだ。
・楽しいことをしている時
・目的を達成した時
・他人に褒められた時
・新しい行動を始めようとする時
・意欲的な、やる気が出た状態になっている時
・好奇心が働いている時
・恋愛感情やときめきを感じている時
・セックスで興奮している時
・美味しいものを食べている時
アルコール等の依存しているものから脱したい時、極端に言えばこれらが代替手段となる。
主人公が最後に愛を選べたのもアルコール以外でドーパミンを得られたからかもしれない。
そもそも、なぜ生物にはドーパミンが必要なのだろうか。
生物は時に、目に見える報酬がない状態でもやらないといけないことを地道に続ける努力をしないといけない時がある。
その努力を継続するにはご褒美が必要で、それがドーパミンの役割だ。
努力とご褒美を習慣化させることで努力を続けることが苦痛ではなくなる。
この習慣化させる仕組みは本来は正しいはずなのだが、誤ったドーパミン摂取方法を覚えてしまった時の習慣化が依存症となる。
ドーパミンを受け取るのは前頭連合野、扁桃体、側坐核、帯状回、視床下部、海馬の「快楽に関する各部分」だ。
特に側坐核が受け取ることが快楽の中心となる。
さらにこの快楽の体験は海馬に記憶され、また同じ状況でより早くドーパミンが出るようになる(期待の快感)。美味しいものを食べた後、またあれが食べたいと思い出すのもこの報酬系の効果と言える。
脳の神経伝達物質は「興奮性」と「抑制性」のどちらかに分類される。
よく興奮している時に出ると言われるアドレナリンもドーパミンから作られている。
刺激を送るのは前頭連合野(知的活動の中枢)と側坐核(快楽の中枢)で、前者は興奮性のグルタミン酸を出し、後者は抑制性のGABAを出してブレーキとなる。
ドーパミンが過剰に出ると攻撃的になったり依存症になったり、統合失調症になることもあり、不足するとうつやパーキンソン病など、さまざまな病気の原因となる。
今話題のフェンタニルなどの麻薬性鎮痛薬(オピオイド系ドラッグ)。
重傷を負った時など、本来は生命活動に必要な痛みがさらなるストレスとなって生命活動を脅かす時に、脳内で分泌される苦痛を和らげる快楽物質が「オピオイド(エンドルフィン、エンケファリン等)」だ。麻薬と同じような作用があり、脳内麻薬様物質と言われ、身体的苦痛を和らげる鎮痛剤になる。
「オピ」はアヘンを表す「オピウム」から名付けられており、代表はモルヒネだ。
オピオイド受容体は脳だけでなく全身の神経にあり、鎮痛だけでなく、鎮静作用、呼吸抑制、催吐作用、麻薬として意識に与える精神作用がある。
「ランナーズハイ」という現象をご存知だろうか。
有酸素運動を始めると最初は苦しいが、10分くらい走り続けると楽になっている。これは俗にウォームアップと呼ばれ、呼吸や循環の仕組みが運動量に最適化した状態でランナーズハイとは別物だ。
ランナーズハイは運動を30分以上、その人の限界に近いペースで走り続けないと訪れない。この激しい苦痛によって、苦痛を和らげるためのオピオイドが分泌され、鎮痛作用とともに幸福感や爽快感を体験できる。
「この道をどこまでも走り続けられそうな気がする」という状態だ。
犬や狼はこのランナーズハイで獲物を長距離でも追いかけることができるらしい。
この時に分泌されるのが「β-エンドルフィン」だ。
「ルフィン」とはモルヒネのことで、体で作られるモルヒネを意味する。
その作用は本家のモルヒネの6.5倍にもなり、ジョギング中毒やランニング依存症となることもある。
依存症とは「本来の設計とは違う方法でご褒美を得ようとする病気」である。
何度も同じ刺激を受けることで、受け手側の反応が大きくなるのだが、一度大きくなるとずっと大きなままとなり、その影響は依存物を絶っても長く残る。
また抑制神経が抑制される系の依存物の場合、どんどんドーパミンに反応しづらくなり、耐性がつくようになる。
依存物の過剰摂取によって、日常の些細なドーパミンでの反応が無くなり、うつ状態や倦怠感が見られるようになる。
フェンタニル依存症は、人体が受けられる最大限のオピオイドを一度の摂取で受け取ってしまい、通常の状態が苦痛にすら感じてしまう(しかも二度目の摂取で一度目の快感を得ることはできない)。
依存物を突然中断する実験では禁断症状のような神経細胞の反応(樹状突起が棘だらけになり非常に敏感になる)が見られた。
依存症には「物質への依存」「プロセスへの依存」「人間関係への依存」の3タイプがある。
アルコール(エタノール)は中枢神経に対する抑制作用(神経の働きを弱くする)がある。つまり、アルコールは脳のブレーキを弱める。
血中アルコール濃度が増えると衝動的行動や感情の抑制が効かなくなる(発揚期)。
もう少し濃度が上がると意識や運動をコントロールする神経が抑制され、刺激に対する反応が鈍くなる(酩酊期)。
さらに濃度が上がると呼吸などの生命維持すらも抑制されて死に至る(昏睡期)。
このように、アルコールは脳を麻痺させる麻酔のような働きをする。
アルコールは報酬系を抑制するGABA神経を抑制してしまい、報酬系のブレーキがなくなる。よってドーパミンがたくさん分泌される。
慢性化しやすく、徐々に重篤になって、治ることはほぼない。
ニコチンは脳幹網様体(呼吸や循環などの生命維持)と大脳辺縁系(情動)に作用する。
これらの部位に対して、ニコチンが少ないと興奮性、多いと抑制性に働く。
そのため、ぼーっとしている時にゆっくりタバコを吸うと脳を活性化させ、イライラしている時は脳を落ち着かせる。
ニコチンは報酬系にも作用してドーパミンを出すので、これらの作用が快感とともに記憶され、依存していく。
ニコチンは即効性が高いが、この作用は長持ちしないので、快楽と喪失を短いスパンで繰り返すことになり、依存症になりやすい。
コカインはコカの植物が原料。覚醒剤はマオウという植物が原料。
コカの葉を噛むとドーパミンが分泌される。コカコーラにコカインが入っていたのは有名な話で、コカインは昔の著名人なども嗜んでいた。
脳には過剰に興奮しないよう、分泌されたドーパミンを回収する掃除機能がある。
コカインはドーパミンも出しつつ、この掃除機能を妨害する。
よってずっと興奮が続く様になる。爽快な気分と表現される独特の快感を得られる。
覚醒剤(日本ではかつてヒロポンという商品名で売られていた)はコカインの作用と似ているがさらに上回り、ドーパミンの分泌量を増やす。
強烈な不眠症、食欲不振、血圧上昇、幻覚、被害妄想など様々な挙動不審な行動を見せる。
ケシはアヘンへ、アヘンはモルヒネへ、モルヒネはヘロインへ。
そして大麻(ガンジャ)はマリファナへ。
モルヒネはアヘンを精製して作る。強い耐性と依存性がある。
モルヒネから合成されるヘロインは、全ての麻薬の中で幸福感と禁断症状の苦しみが一番と言われる。
アヘン系の麻薬は鎮痛作用と心のブレーキのGABA神経を抑制する働きで強い幸福感を得て中毒になりやすい。
アルコールが興奮しやすいアッパー系麻薬だとすると、アヘンはダウナー系麻薬だ。
菌やキノコ類は様々な化学物質を生成できる。
その中で幻覚性の強いものが総称としてマジックマッシュルームと呼ばれる。
これらはドーパミンと並んで重要な神経伝達物質のセロトニンを受け入れる側に作用し、幻覚や幻視、幻聴を及ぼす。
共感覚といった「色が聞こえる」のような体験もする。
脳は自身の体重をコントロールしている。
体重調整の役割は視床下部が担い、本能的な欲求をコントロールしている。
脳は脂肪細胞から分泌されるレプチンの量で体重を把握している。
さらに食べた量もモニターされており、胃や腸にあるセンサー細胞からの信号が脳の視床下部や室傍核に伝わる。
伝えられた信号から判断されて「空腹ホルモン(オレキシン)」と「満腹ホルモン(CRH)」が分泌される。
食事中はドーパミンが出る。
覚醒剤でドーパミンが溢れた状態にすると食欲はなくなる。またレプチンが多い状態ではドーパミン放出量が減る。
太りやすい体質のラットと通常のラットに同じだけ食べさせると、太りやすいラットの方がドーパミンの分泌量が少ない。つまり、過食はドーパミンの量が満足するまで食事を続けることから起こっているようだ。
ドーパミンの量は食事のメニューによって変化する。
空腹時の最初の一口が最大の量となり、徐々に減っていく。
肥満体型の人はドーパミンの受容体が少なく、ドーパミンの量自体も痩せている人より少ない。これはドーパミン受容体に関する遺伝子によって起こっている。
この場合、「期待の快感」の方が強く、実際食べてみるとドーパミン量が少なく満足できない。
ゲームやギャンブルはとんでもなくドーパミンが出る。
むしろそのように設計されている。子供がゲームに夢中になるのは仕方ないのだ。
実は脳内では「ニアミス」の時は「当たり」と同じくらい嬉しい状態にある。
惜しかった!と言う快楽がまた挑戦させる気にさせる。
社会的報酬でもドーパミンは分泌される。
脳は「報酬でお金を得た時」と「他人から褒められた時」は同じ反応を示すようで、年収と幸福度は相関しない。
褒められる時はYouメッセージよりIメッセージが良いとされ、「あなたはすごい」と言うより、「私はあなたがすごいと思う」と言われた方が嬉しい。
また、人はミラーニューロンで、「相手の幸せな気分」に共感して自分も同じ気分になることができる。
笑っている(顔だけでも)時は、心拍数が下がり、ストレスが軽減される。
脳内のセロトニン不足が不安神経症やうつ病の原因と言われ、セロトニンは「他人との結びつき」や「幸福感」を感じている時に分泌されている。
常々、ストゼロは合法麻薬だよなと思っています。
『今夜、すべてのバーで』の主人公も手に入りやすいドラッグが酒だったと語っています。
アル中になれる素質は全人類が持っている訳ではありません。
遺伝子的にアルコールを分解できるかを前提として、苦痛を和らげる選択肢としてアルコールを選ぶかどうかです。
今のご時世、推し活や風俗、暴食などさまざまな方法で大量のドーパミンを得ることができます。
アルハラも認識され、職場での飲み会でアルコールを強制されることもなく、アルコールを飲まなくても生きていける世界になりました。
アルコールを断つためには、他の依存先を見つけるしかないのかもしれません。
作中のアルコール依存症テストの私の結果は8.2でした。
アルコール中毒は、一度なってしまうともう治ることはないと言われています。
それはそういう素質を持っているからなのでしょう。
連続飲酒をなんとしても阻止するためにも、日々仕事に行かないとなと思いながら、日曜日の晩酌を楽しめる世界であって欲しいです。